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Xenosaga二次創作(現パロ)ブログ。詳細は「このブログについて」カテゴリをご覧ください。
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何とこのカテゴリー書くの、1年ぶりです!
プチSSにはディミトリの登場率が高いですね。小ネタは色々あるんですけど、黒黄にはなりにくいからかな!
そんなわけで、ディミトリ・ガイナン親子の小話です。


+ + + + + + + + + +


玄関の鍵が開く音がした。
ガイナンは皿を洗っていた手を止め、足台からぴょんと飛び降りると玄関に向かった。
「父さん!」
「ああ、ただいま」
ディミトリが、玄関で靴を脱いでいる。
ディミトリが家に帰ってくるのは一か月ぶりだ。長期家を空けることが多いディミトリからは、「今から帰る」「明日帰る」など、連絡があるときもあれば、今日のように突然帰ってくるときもある。
「おかえり、今日でしたか?」
「必要な荷物を取りに来ただけだ。すぐに迎えがくる」
すたすたと廊下を歩きながら、ディミトリは腕時計を見ている。ガイナンの横を通り過ぎる時も、ガイナンの方を、ちらっとも見なかった。
「あ、そうだ」
「?」
ピタッと足を止めて振り向くと、ようやくディミトリがガイナンを見た。
「こないだ送った荷物の中に入っているアールグレイを淹れておいてくれ。ストレートでいい」
それだけ言うと、足早に自室へと入っていった。

しばらくすると、ディミトリがリビングへやってきた。
ソファに腰を下ろし、膝の上にタブレット端末を置くと忙しなく何かを読み始めた。仕事をしているのだろう。ガイナンは、ディミトリの座るソファの前にあるセンターテーブルに、淹れたての紅茶を置いた。
そしてガイナンがそのまま邪魔をせぬよう立ち去ろうとすると、
「ちょっと待て。・・・ほら、土産だ」
ガイナンが振り向くと、ディミトリが少しだけタブレットから顔をあげ、ガイナンに箱らしきものを差し出していた。
「え、僕にですか?」
「他に誰がいる」
ガイナンが受け取ると、またディミトリはタブレットに視線を落とす。
また高級な食べ物だろうか?と思いながら、ガイナンは箱をよく見てみた。長方形の木製の箱で、綺麗な市松模様が上下面に施されている。金色の見事な装飾が施された金具が、蓋を閉じる部分についていた。
「・・・綺麗な箱ですね」
そう言いながら、金具をあけると、箱の中には、小さな駒がたくさん入っていた。
「!」
その駒を見れば、その箱が、「箱」ではないことが、ガイナンにもすぐ分かった。
これは、チェスセットだ。
「出先でたまたま入ったアンティークショップで見つけたのだ。なかなかいい品だったのでね」
「・・・・僕に、ですか?」
ガイナンが驚いた顔でまた尋ねた。
ディミトリは今まで色々なものをガイナンに了承もなく買ってきた。例えば学習机、自転車など。しかし記憶にある限り、ディミトリがガイナンに、こういった・・・人生にさして必要とされない娯楽品・・・おもちゃをわざわざ買い与えたことはなかった(お金だけ渡し、欲しいものは好きなだけ買いなさいと言われている)。
するとディミトリはまた顔をあげ、不思議そうな顔をした。
「なんだ。お前はチェスを知らないのか?」
「あ・・・はい。今まで、覚える機会はありませんでしたから」
8歳の子供が、チェスを覚える機会など、誰かが教えなければないだろう。
「・・・・ふむ」
ディミトリはタブレットを膝から降ろすと、隣のソファに置いた。そして腕を伸ばしてガイナンからチェスセットを取り上げた。
「あ・・・・」
(折角貰ったのに・・・)
ルールも知らない自分には、勿体ないということなんだろうなと、ガイナンは少し残念な気持ちになりながら手を離した。そしてやはり邪魔にならないように立ち去ろうとすると・・・
「何をしている。そこに座りなさい」
ディミトリが、センターテーブルの対面を指さす。
そして箱から駒を取り出し、二つ折りになっていたチェス盤をテーブルの上に広げた。
「え、あ、はい」
慌ててガイナンがテーブルの前に座る。
「これがキング。キングの動きはこうだ」
黒のキングを手に取り、ディミトリが、こん、こん、こん、と駒を盤上で動かした。
「これがクイーン。動きはこう」
次に黒のクイーンを手に取る。同様に、盤上で動かした。
そうやってすべての駒の動きをざっと説明した。
「・・・わかったか?」
「・・・・はい」
ガイナンは頷く。
「並べ方はこうだ。お前の側が白だ。先手は白」
「・・・・はい」
「さぁ、打て」
「え!?」
盤上をじっと見ていたガイナンが驚いて顔を上げた。ディミトリが前かがみの姿勢のまま、黒側の駒を並べていた。
「動きは覚えただろう?ならばできるはずだ」
さぁ早くしろ、とディミトリが言う。
ガイナンはドキドキした。ディミトリが、『遊び』に付き合ってくれたことなど、これまでになかったからだ。駒の動きを頭の中で整理しながら、ガイナンはポーンを一つ手に取った。
「・・・チェック」
「・・・・・」
ものの数分・・・わずか二十手にも満たず、勝負はついてしまった。
「話にならんな」
屈めていた身を起こし、ディミトリがまたソファに深く腰掛けた。横に置いていたタブレットを手に取り、また仕事に戻る。ガイナンはがっくりと肩を落とした。
初めて自分と遊んでくれた父親。その期待に、応えられなかった。それが悲しくもあり、悔しくもあり、遊んでもらえることに嬉しさを感じた自分が情けなくもあった。
唇を噛みながらガイナンが駒を片付け始めると、またディミトリが声をかけてきた。
「何をしている?」
「え、片付けようかと・・・」
「なんだ。お前はもうやめてしまうのか?」
「でも父さんは仕事を・・・」
「今のお前の相手など、寝ていても勝てる。盤面など見なくても私は打てるさ。私が言った通りにお前が駒を動かせ。お前も動かす時に声に出せ。・・・あー、マスの名前は、お前の側の左下から横にa、b・・・。下から上に1、2・・・となる。駒の名前は頭文字だけ言えばいい。いいな?」
「・・・はい!」
ガイナンはテーブルの前に座りなおすと、急いで駒を並べた。そして、白いポーンを一つ手に取る。
「えーっと・・・Pe4」
「ポーンのPは省略するのがルールだ。c5」
コツ、とガイナンはディミトリ側の黒いポーンを動かした。

それから1時間ほどの間、ガイナンとディミトリは何試合もおこなった。だが、ガイナンは一度も勝てなかった。
ディミトリの携帯電話が鳴る。
「・・・・時間切れだ」
電話を受けながら、ディミトリは素早くタブレットなどをカバンにしまっている。
「・・・はい、父さん。・・・あの、ありがとうござ・・・」
こんなに遊んでもらったのは生まれて初めてだった。ガイナンがお礼を言おうとすると、ディミトリは既に立ち上がってリビングから出て行こうとしていた。しかし、扉の所で振り返り、
「『次』までにもう少し強くなっておけ。勉強しておくように」
「・・・・・!」
また、『次』があるのか。
一緒にチェスをしてくれるのか。
ガイナンが驚きに声を失っていると、返事をする前にもうリビングの扉は閉まってしまった。
「・・・・・・」
テーブルのチェスを片付けながら、ガイナンはくすぐったくなるような気持ちを抑えられず、笑顔を浮かべていた。
「・・・・よし、頑張ろう」
少なくともディミトリが盤上を見ながら戦えるくらいには、強くなれるように。
『次』また一緒にチェスをやれる日までに。
 
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