Xenosaga二次創作(現パロ)ブログ。詳細は「このブログについて」カテゴリをご覧ください。
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時計は15時50分を指していた。
16時から6限目の講義時間が始まる。6限目ともなると、勿論必修の授業はないし、自由選択の授業だけだ。多くの学生は自分の自由時間をとるために、必要以上に6限目の授業なんて取らない。しかも、この講義は出席で単位が貰えるものではなく、難しい授業の内容のテストの結果次第で単位が貰えるという、最も学生から嫌がられるタイプの講義だ。単位が足りないからと選ばれるような楽な講義では決してない。『この教授の授業を受けたい学生』だけが選択する講義といえるだろう。なので、教室も1番小さなタイプの部屋であるし、あと10分で授業が始まるというのに、埋まっている座席は半分くらいだった。
シトリンは、窓際の前よりの席に座って本を読んでいた。今から始まる講義の教授が書いた本だ。今日はこの講義の初回。どんな話が聞けるかシトリンは楽しみにしていた。
「隣、いいですか?」
突然声をかけられ、シトリンは驚いて顔をあげた。こんな空席だらけの教室で、そんなことを聞かれるとは思ってもいなかった。見れば、葵色の髪をした見るからに溌剌とした女性が傍らに立っていた。にこにこと笑っている。
「えぇ、どうぞ」
シトリンが頷くと、その女性は「ありがとう」と言って隣の席に座った。そして座るが早いかすぐにシトリンに話しかけてきた。
「よかったー。同じ科の人が居て。やっぱり講義初日って緊張するし、一人だと心細いよねー」
「?」
シトリンがきょとんとした顔をする。すると女性は同じように不思議そうに眼を瞬いた。そして、何かに思い至ったのかクスクス笑い出した。
「シトリンさんだよね?法学科の」
「え、ええ・・・そうだけど」
「私も法学科!見おぼえない?メリスっていうの」
自分を指さすメリス。
シトリンは一生懸命記憶をたどった。大学に入学してまだ2週間。オリエンテーションやらガイダンスやらばかりで、ようやく授業が始まったところだ。大学に慣れることやシラバスとのにらめっこで周りなんて気にしている余裕がなかった。
ああ、でも・・・何となく見おぼえがある。この綺麗に切りそろえられた葵色の髪・・・。そうだ、いつも楽しそうにたくさんの友人とお喋りしている子じゃないだろうか。
「・・・思い出した?」
にこっと笑いかけられ、シトリンは慌てて頭を下げた。
「あの、ごめんなさい・・・・その、すぐ分からなくて」
「いいのよ!私の特技みたいなものだから。人の顔と名前をすぐ覚えるの」
「・・・・凄いのね、もしかして、もう全員同じ科の人を覚えているの?」
「えぇ」
当然のように答えられ、シトリンは驚いた。どちらかというと、シトリンは人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。おそらく積極的に関わろうという気がもともとないせいであろうが。
「私ね、この先生の講義すっごく楽しみにしてたの。先生の本、とても興味深かったから」
シトリンが自分のことを覚えていなかったことも、まったく気にしていない様子でメリスは話を続けた。その言葉を聞いて、シトリンは手元の本のブックカバーを外した。
「この本?」
「!そうそうそれ!刑法についての見解が私と同じでさー。うわー嬉しいな。法学科なのに今までそれ読んでる子に会えなかったんだよね。その第3章でさ・・・」
身を乗り出してメリスがその本について話し出そうとしたとき、講義室の扉が開いて先生が入ってきた。メリスは残念そうに肩をすくめ、シトリンに顔を寄せてきた。
「またあとで話聞いてね!」
・・・それが、メリスとの出会いだった。
その後、なぜか自然とシトリンはメリスと一緒に行動することが多くなった。もともとシトリンは一人で行動するタイプだったので、どちらかというとメリスがシトリンに構ってくるという構図だった。
メリスはシトリンと対照的と言えるくらい、活発で、積極的で、社交的な子だった。友達も多いし、趣味も多岐に及ぶ。学外でも、本当にこの人の一日は24時間なのだろうかと思えるほどに色々なことをやっているようだった。そんなメリスが、なぜかシトリンと仲良くなったのだ。
シトリンは、他人からぐいぐい来られるのが苦手だったが、メリスの事はなぜか平気だった。何と言えばいいのだろうか・・・押しつけがましい感じがしないのだ。これまでを振り返っても、単独行動を好むシトリンを無理やり女子の輪の中に入れようとしてくるタイプの子は何人かいた。その子たちに共通するような、「構ってあげている」という感じがメリスは全くないし、シトリンに何かを無理強いすることがなかった。それぞれのスタンスを保ちつつ、重なる部分だけを共有しているというか…。シトリンにとって、一緒にいて楽しい、楽だと思える相手だった。
だが・・・やはり、周りはそれが不思議だったのかもしれない・・・・。
ある日、帰りに一緒に本屋へ行こうと、掲示板の前で待ち合わせをした。時間になってもメリスが現れないので、シトリンが電話を掛けようかとカバンの中に手を入れた時、
「メリスじゃん!」
シトリンが立っている掲示板の反対側で、そんな声が聞こえた。
「何してるのー?」
「シトリンと待ち合わせ!」
メリスの声だ。どうやら掲示板を挟んで反対側に彼女は来ていたらしい。声をかけようとシトリンが振り返りかけた時、
「・・・ねぇメリスさぁ。前から聞きたかったんだけど、何であの子と仲イイの?」
思わず、ぐっと息を飲み込んでしまった。声の主はたぶん、メリスとよく遊びに行っている同じ科の子だ。
何となく胸が痛くなってきて、シトリンはぎゅっと手を握りしめた。どうしよう、この場を離れた方がいいかな・・・と足を出しかけた。
「何でって・・・おかしい?シトリンいい子じゃん」
メリスが当然のようにそう答えた。
「でもさ、メリスとタイプ違うじゃん?付き合い悪いし、大人しいし。何ていうか真面目すぎじゃない?あの子必要ない単位の分まで授業取ってんじゃん。1限から6限までぎっしり。ちょっと引くよね」
「・・・・・・」
メリスは答えない。
「それにさ、あの子孤児院出身らしいよ。親がいないから、生活費とか稼ぐためにバイトもいっぱいしまくってるってさ。あ、そっか。・・・やっぱ可哀そうとか思って構ってあげてるの?」
シトリンは出しかけたまま動かなくなった足を見下ろした。どこに行っても、やはり自分は『可哀そうな子』というレッテルしか貼られない。特に女子大なんて女の世界では、弱者として格下に見られてしまうのだろう。
「・・・うーん。そうねぇ・・・・」
メリスの声が聞こえた。ようやく仲良くできる子ができたと思っていたが、やはり、自分と一緒にいるのがメリスにとってマイナスになるならば、身を引くべきだとシトリンは考えた。だがそんなシトリンの思いを打ち消すような言葉が、メリスの口から発せられた。
「何というか、馬鹿らしくて否定するのもめんどくさいけど・・・・」
呆れたような声だった。
「まずさ、ここ大学でしょ?勉強しに来てるんでしょ?単位のために講義受けてるの?違うでしょ。勉強するために講義とって何がおかしいの?」
「え・・・・」
「で?孤児院出身?それが何?それがあの子と付き合わない理由になる意味が分かんない。あんたは親の仕事で友達決めんの?それに生活のためにバイトして何が悪いの?私だってバイトしてるけど、その目的が生活か小遣いかってだけじゃない?自分の時間好きに使って何の問題があるの?」
「・・・や、そんな・・・怒んなくても・・・」
そう。メリスの声は明らかに怒っていた。相手の子は狼狽しているようだった。
「友達悪く言われて怒らない方がおかしくない?」
きっぱりとした言葉だった。「そんないい方しなくても・・・」などとぶつぶつ言いながら相手の子が走り去っていく音がした。
「まったく・・・超不愉快」
それでもまだメリスの怒りは収まらないらしく、ぶつぶつ言っているのが分かった。
シトリンはそっとその場から離れ、一旦廊下の角を曲がったところまで移動した。自然と、頬が緩んでしまう。
(私、メリスの友達でいていいんだ・・・)
何だか、くすぐったい気持ちだった。素直に、嬉しかった。
シトリンは再び掲示板の方へ向かって、さも今急いできましたという風に走り出した。
「・・・ごめんメリス!遅れちゃった・・・!」
駆け寄りながら声をかけると、シトリンに気づいたメリスは、ぱっと笑顔を浮かべて手を振ってくれた。
16時から6限目の講義時間が始まる。6限目ともなると、勿論必修の授業はないし、自由選択の授業だけだ。多くの学生は自分の自由時間をとるために、必要以上に6限目の授業なんて取らない。しかも、この講義は出席で単位が貰えるものではなく、難しい授業の内容のテストの結果次第で単位が貰えるという、最も学生から嫌がられるタイプの講義だ。単位が足りないからと選ばれるような楽な講義では決してない。『この教授の授業を受けたい学生』だけが選択する講義といえるだろう。なので、教室も1番小さなタイプの部屋であるし、あと10分で授業が始まるというのに、埋まっている座席は半分くらいだった。
シトリンは、窓際の前よりの席に座って本を読んでいた。今から始まる講義の教授が書いた本だ。今日はこの講義の初回。どんな話が聞けるかシトリンは楽しみにしていた。
「隣、いいですか?」
突然声をかけられ、シトリンは驚いて顔をあげた。こんな空席だらけの教室で、そんなことを聞かれるとは思ってもいなかった。見れば、葵色の髪をした見るからに溌剌とした女性が傍らに立っていた。にこにこと笑っている。
「えぇ、どうぞ」
シトリンが頷くと、その女性は「ありがとう」と言って隣の席に座った。そして座るが早いかすぐにシトリンに話しかけてきた。
「よかったー。同じ科の人が居て。やっぱり講義初日って緊張するし、一人だと心細いよねー」
「?」
シトリンがきょとんとした顔をする。すると女性は同じように不思議そうに眼を瞬いた。そして、何かに思い至ったのかクスクス笑い出した。
「シトリンさんだよね?法学科の」
「え、ええ・・・そうだけど」
「私も法学科!見おぼえない?メリスっていうの」
自分を指さすメリス。
シトリンは一生懸命記憶をたどった。大学に入学してまだ2週間。オリエンテーションやらガイダンスやらばかりで、ようやく授業が始まったところだ。大学に慣れることやシラバスとのにらめっこで周りなんて気にしている余裕がなかった。
ああ、でも・・・何となく見おぼえがある。この綺麗に切りそろえられた葵色の髪・・・。そうだ、いつも楽しそうにたくさんの友人とお喋りしている子じゃないだろうか。
「・・・思い出した?」
にこっと笑いかけられ、シトリンは慌てて頭を下げた。
「あの、ごめんなさい・・・・その、すぐ分からなくて」
「いいのよ!私の特技みたいなものだから。人の顔と名前をすぐ覚えるの」
「・・・・凄いのね、もしかして、もう全員同じ科の人を覚えているの?」
「えぇ」
当然のように答えられ、シトリンは驚いた。どちらかというと、シトリンは人の顔と名前を覚えるのが苦手だ。おそらく積極的に関わろうという気がもともとないせいであろうが。
「私ね、この先生の講義すっごく楽しみにしてたの。先生の本、とても興味深かったから」
シトリンが自分のことを覚えていなかったことも、まったく気にしていない様子でメリスは話を続けた。その言葉を聞いて、シトリンは手元の本のブックカバーを外した。
「この本?」
「!そうそうそれ!刑法についての見解が私と同じでさー。うわー嬉しいな。法学科なのに今までそれ読んでる子に会えなかったんだよね。その第3章でさ・・・」
身を乗り出してメリスがその本について話し出そうとしたとき、講義室の扉が開いて先生が入ってきた。メリスは残念そうに肩をすくめ、シトリンに顔を寄せてきた。
「またあとで話聞いてね!」
・・・それが、メリスとの出会いだった。
その後、なぜか自然とシトリンはメリスと一緒に行動することが多くなった。もともとシトリンは一人で行動するタイプだったので、どちらかというとメリスがシトリンに構ってくるという構図だった。
メリスはシトリンと対照的と言えるくらい、活発で、積極的で、社交的な子だった。友達も多いし、趣味も多岐に及ぶ。学外でも、本当にこの人の一日は24時間なのだろうかと思えるほどに色々なことをやっているようだった。そんなメリスが、なぜかシトリンと仲良くなったのだ。
シトリンは、他人からぐいぐい来られるのが苦手だったが、メリスの事はなぜか平気だった。何と言えばいいのだろうか・・・押しつけがましい感じがしないのだ。これまでを振り返っても、単独行動を好むシトリンを無理やり女子の輪の中に入れようとしてくるタイプの子は何人かいた。その子たちに共通するような、「構ってあげている」という感じがメリスは全くないし、シトリンに何かを無理強いすることがなかった。それぞれのスタンスを保ちつつ、重なる部分だけを共有しているというか…。シトリンにとって、一緒にいて楽しい、楽だと思える相手だった。
だが・・・やはり、周りはそれが不思議だったのかもしれない・・・・。
ある日、帰りに一緒に本屋へ行こうと、掲示板の前で待ち合わせをした。時間になってもメリスが現れないので、シトリンが電話を掛けようかとカバンの中に手を入れた時、
「メリスじゃん!」
シトリンが立っている掲示板の反対側で、そんな声が聞こえた。
「何してるのー?」
「シトリンと待ち合わせ!」
メリスの声だ。どうやら掲示板を挟んで反対側に彼女は来ていたらしい。声をかけようとシトリンが振り返りかけた時、
「・・・ねぇメリスさぁ。前から聞きたかったんだけど、何であの子と仲イイの?」
思わず、ぐっと息を飲み込んでしまった。声の主はたぶん、メリスとよく遊びに行っている同じ科の子だ。
何となく胸が痛くなってきて、シトリンはぎゅっと手を握りしめた。どうしよう、この場を離れた方がいいかな・・・と足を出しかけた。
「何でって・・・おかしい?シトリンいい子じゃん」
メリスが当然のようにそう答えた。
「でもさ、メリスとタイプ違うじゃん?付き合い悪いし、大人しいし。何ていうか真面目すぎじゃない?あの子必要ない単位の分まで授業取ってんじゃん。1限から6限までぎっしり。ちょっと引くよね」
「・・・・・・」
メリスは答えない。
「それにさ、あの子孤児院出身らしいよ。親がいないから、生活費とか稼ぐためにバイトもいっぱいしまくってるってさ。あ、そっか。・・・やっぱ可哀そうとか思って構ってあげてるの?」
シトリンは出しかけたまま動かなくなった足を見下ろした。どこに行っても、やはり自分は『可哀そうな子』というレッテルしか貼られない。特に女子大なんて女の世界では、弱者として格下に見られてしまうのだろう。
「・・・うーん。そうねぇ・・・・」
メリスの声が聞こえた。ようやく仲良くできる子ができたと思っていたが、やはり、自分と一緒にいるのがメリスにとってマイナスになるならば、身を引くべきだとシトリンは考えた。だがそんなシトリンの思いを打ち消すような言葉が、メリスの口から発せられた。
「何というか、馬鹿らしくて否定するのもめんどくさいけど・・・・」
呆れたような声だった。
「まずさ、ここ大学でしょ?勉強しに来てるんでしょ?単位のために講義受けてるの?違うでしょ。勉強するために講義とって何がおかしいの?」
「え・・・・」
「で?孤児院出身?それが何?それがあの子と付き合わない理由になる意味が分かんない。あんたは親の仕事で友達決めんの?それに生活のためにバイトして何が悪いの?私だってバイトしてるけど、その目的が生活か小遣いかってだけじゃない?自分の時間好きに使って何の問題があるの?」
「・・・や、そんな・・・怒んなくても・・・」
そう。メリスの声は明らかに怒っていた。相手の子は狼狽しているようだった。
「友達悪く言われて怒らない方がおかしくない?」
きっぱりとした言葉だった。「そんないい方しなくても・・・」などとぶつぶつ言いながら相手の子が走り去っていく音がした。
「まったく・・・超不愉快」
それでもまだメリスの怒りは収まらないらしく、ぶつぶつ言っているのが分かった。
シトリンはそっとその場から離れ、一旦廊下の角を曲がったところまで移動した。自然と、頬が緩んでしまう。
(私、メリスの友達でいていいんだ・・・)
何だか、くすぐったい気持ちだった。素直に、嬉しかった。
シトリンは再び掲示板の方へ向かって、さも今急いできましたという風に走り出した。
「・・・ごめんメリス!遅れちゃった・・・!」
駆け寄りながら声をかけると、シトリンに気づいたメリスは、ぱっと笑顔を浮かべて手を振ってくれた。
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女子の友情だ~!
いおさん仕事早すぎですwwありがとうございます御褒美です!!!
私はいおさんと真逆の反射を持っていると言えますね。頼まれなくても漫画とか絵で勝手に描いちゃうやつ…!お互いにこの10年はその習性が身に染みた年月でもありましたね(笑)
そしてそして、早速シトリンとメリスのお話ですねー!出会い編頂戴しましたぞっ!!メリスが上辺だけで判断せずに付き合ってくれるところがイイですねぇ。このままさっぱりと芯が強いまま良い婦警さんになって、ジギーとあーだこーだするんだろうなと思うなどと、出会い編の先まで妄想してしまいます。シトリンにとってのキャンパスライフも、メリス(仲良い友達)が居たからこそ、充実した思い出があるんだろうなとか妄想してしまいますねー!時間が来い!!
あ。法学科もばっちりキャッチですOKですbb
私はいおさんと真逆の反射を持っていると言えますね。頼まれなくても漫画とか絵で勝手に描いちゃうやつ…!お互いにこの10年はその習性が身に染みた年月でもありましたね(笑)
そしてそして、早速シトリンとメリスのお話ですねー!出会い編頂戴しましたぞっ!!メリスが上辺だけで判断せずに付き合ってくれるところがイイですねぇ。このままさっぱりと芯が強いまま良い婦警さんになって、ジギーとあーだこーだするんだろうなと思うなどと、出会い編の先まで妄想してしまいます。シトリンにとってのキャンパスライフも、メリス(仲良い友達)が居たからこそ、充実した思い出があるんだろうなとか妄想してしまいますねー!時間が来い!!
あ。法学科もばっちりキャッチですOKですbb
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